01.帰還の後。





教会の廊下を歩いていると
見慣れたシルエットが目に留まった。






「よお、シキト・レヴァンヌ。」






呼び止められた少年と同じ黒い制服に身を包んだ長身の男性。
いや、男性というよりは少年のほうがいいかもしれない。
歳はそんなに変わらないはずだから。


「・・・・なんか用?」
「おまえのパートナー怪我したんだって?」
「だから?」
「大変だなあ、無能な職人押し付けられて」
「・・・・・・」


少年の前を通り過ぎようとして足が止まった。
冷めた眸で少年を見据える。


「無能、ねえ」
「だって殺したこともないんだろ?」


この少年の名前、なんていったっけ。
なにかしら突っかかってくるから顔は覚えたけど
名前がどうしても思い出せない。










「犯罪者を殺せば優秀なわけ?」










なら、おまえはトップレベルだな。おめでとう。
赤茶色の髪に赤みがかかった琥珀色の眸をした少年は
シキトに軽くあしらわれて表情をしかめた。


「あんた、つまんない人間だね」
「は・・・?」


怪訝そうにというよりは、イラついたように眉をひそめた少年に
口先を吊り上げた笑みを浮かべて背を向けた。
ああ、思い出した。
この少年の名前は、ゼルス・シャドウ。










*     *     *     *     *










教会の中庭には、教会が設立される前から
そこにある大きな桜の大樹がある。
偉大な存在感を放ち、そこにそびえ立つその樹は、
職人たちの心の癒しだった。








「ここで、なにしてるの?」








それはシキトも一緒で。
長い間生きてきたこの桜の樹を見ていると、自然と心が落ち着いた。


「べつに、なにも」
「・・・・そっか。」


ふいに投げかけられた聞きなれた声に
淡い色の髪の少年は特に驚いた様子も見せず振り返る。
目の前にいるのは思ったとおり、
灰色の髪に可愛らしい顔立ちのパートナーの少女。


「こんなとこいて、平気なの?」
「え?」
「頭、強く打ったんでしょ?」
「うん。でも、もう大丈夫」


そう言って小さく微笑んだルシアは
やっぱりすこし顔色が悪い。










「休めるときにゆっくり休んどきなよ」










ルシアに歩み寄り、呆れたように溜息を吐く。
前から思ってたけど、この少女は無茶をしすぎるところがある。


「無駄に無理したって、なんにもなんないよ」
「ちょっと、不思議な夢見ただけだよ」
「ふうん?どんな?」
「え、・・・・わ、忘れちゃった、かな」
「・・・・ほんとに視たの?」


思わず呆れ顔を向けると、
ルシアは珍しく困ったように笑みを引きつかせた。
・・・・わかってる。
ルシアは嘘を吐かない。
きっと言いにくい夢を視たんだろう。








「医務室に帰るよ」








そう溜息を吐いて彼女の前を通り過ぎた。
特に用があるわけじゃないし、話すだけならどこでもできる。


「あっ、あのね!」
「ん?」
「今回の任務、助けてくれてありがとう」


ルシアの言葉に、思わず目を見開いた。
助けた、って一番最初に助けようとしたのは彼女なのに。


「あのね、雨の中シキトくんが運んでくれたって聞いた」
「ああ、うん。大変だった」
「だから、ごめんね」
「べつに謝らなくてもいいけど」
「で、でも・・・っ」

呼び出したおかげで迎えに来てもらえたし。
それでもルシアは納得していない様子で。
軽く頭を抱えて、今日何度目かわからない溜息を吐いた。








「いいじゃん。パートナーなんだから」








え、と驚いたように少女が声を零すのが聞こえた。
そんなルシアに背を向けて歩き出す。


「迷惑かけたって、普通でしょ?」
「・・・・そう、かな」
「もしそうじゃなくても、そうなんだよ。おれは」
「・・・・・・」


ルシアのようすを伺わなくたって、
喜んでいるのが空気で伝わってくて内心首をかしげた。
そんな喜ぶようなこと言ったかな。


「まあ、面倒くさいけどね」
「え、えっ!?ひどいよ、それ!」 「そう?」
「そうだよ!せっかく嬉しかったのに」
「どうでもいいけど、あんま騒ぐとグリードに怒られるよ」


正確に言うと、グリードじゃなくて
彼のパートナーの生真面目なアシュア・マリンという女性だが。
その女性が怒るとシキトと同じくらい恐ろしいことを
知っている少女は表情を引きつかせ早足に歩き出す。
「ねえ、シキトくん。













next→