そらかげ

05.変わらない。



あなどれない。
絶対隙を見せれない。






淡い色をした髪の青年の後ろを歩きながら、覚悟を決める。






昨日は好きにすれば、とか言っていたけど。
隙を見せれば彼に置いて行かれるかもしれない。
気を許すことなんて、できない。








「あのさ、なんで睨まれてるの、おれ」








睨むように青年を見据えていた少女を、
シキトは呆れ顔で振り返った。


「えっ、に、睨んでなんかないよっ!!」
「へえ?置いていかれるんじゃないか、とか思ってたくせに」
「うっ・・・!!」
「情けないよね、ポーカーフェイスもできないなんて」


青年の表情はどこか楽しげだ。
恨めしげにその表情を睨みつけて、溜息を吐く。
何を言い返したって、彼には適わない。










「シキトーーっ!!こっちこっち!!」










立ち止まったままだった2人に聞き覚えのある
明るい声が掛かって、そちらを振り返る。


「レオ、うるさい」
「なんだよー。あ、迎えにきたのがそんなに嬉しかった!?」
「・・・なんの話?」
「んだよ、照れてたのかー。かわいいなーおまえ」
「だから、なんの話?」
「まーかわいいのは昔からか。変わんねーよなぁ」
「あのさ、勝手に自分の世界に浸らないでくれる?」


妄想もそこまでくると、気持ち悪いよ。
無表情のまま辛辣な言葉を吐く青年は、きっと本気だ。
からかいや冗談ではなく、本気で気持ち悪がっている。












「あたしを呼びつけておいて待たせるなんて。
いい度胸してるじゃないの。シキト・レヴァンヌ」












レオの後ろから不機嫌丸出しの、少女が姿を現す。
守護職人の白い制服を身に纏い、まっすぐな眸で青年を睨みつけた。


「わかってると思うけど。あたし、あんた嫌いなのよ」
「知ってるよ。だから?」
「今回はあんたじゃない、あんたの可哀想なパートナーの為に来たのよ」
「わかってるけど。それをわざわざ宣言するために声をかけたわけ?」
「そうよ。あなたに協力するとか、そんなふうに勘違いされたら困るから」


やっぱり口で彼に勝てるものはいない。
守護職人の少女に不適な笑みを浮かべた相棒を見て、そう確信した。
彼は、言われっぱなしで終わるような人じゃない。










「それは好都合だよ。」










笑みを浮かべたシキトに、少女が顔をしかめる。
次に彼が吐き出すだろう言葉にレオは苦笑し、
ルシアは表情を引きつかせて硬直した。


「おれもあんたなんかに協力を求めた、なんて誤解されても困るからね」
「なんですって!?」
「おれが協力を求めたのは、レオだ」


だから今日は、パートナーの少女についてきただけ。
そう言い張る青年に、レオが溜息を吐いた。








「ティスタ、もういいだろ?」








本題に入ろうぜ。
相棒である栗色の髪の少女に声をかける。


「おまえ、ほんと昔から変わらねぇよ」


そういう人の神経逆なでするところ。
呆れた表情で囁いた金髪の青年に、シキトは笑みを浮かべる。


「それ、褒め言葉?」
「んなわけねぇだろ。ティスタは怒るとめんどーなんだぞ」
「それは悪かったよ」


青年の2人の会話を後ろで聞きながら、表情を引きつかせる。
シキトもシキトだが、レオもレオだ。
2人が言い合うことになるの、わかっていたくせに。












「で、その悪魔なんだけどね。それ、武器なのよ」












中庭に移動して、ベンチに腰掛けながら。
栗色の髪の少女は無表情にそう言い捨てた。


「・・・武器、ですか?」
「そう。核兵器みたいなものだと思うのよねー」


核がどうかはわからないけど、それくらい脅威的なものよ。
正面に座って、まじまじとティスタの顔を見つめる。
さっきは不機嫌そうで恐かったけど、
よく見ればきれいな顔つきをしている。
太陽の光に当たった栗色の髪が、すごくきらきらして見えた。






「ちょっと、聞いてるの?」






顔を除きこむようにして睨まれて、目を見開く。
彼女に隣に座っている少年は困り顔。


「あんたはその武器を奪おうとしている犯罪者を捕まえて、武器を破壊。」
「もしくは確保して本部に持ち帰る」
「この2つをしなければならない。わかった?」


ティスタとレオ両方に順々に言われて、呆然とする。
そんな彼女に、シキトは大きな溜息を吐いた。








呆れて皮肉すら言えない。








そう言われている気がして、顔が引きつる。


「わかってるの?そんな武器が犯罪者の手に渡れば、この世界は終わりよ」
「間違いなく、ここ本部を狙って攻撃してくるなー」
「本部の周りにはたくさんの都市があるのよ。
 そこにだって大きな被害が出るわ」
「被害で済めばいいけどなー」
「「さいあく、人類滅亡かも」」


思っていたよりも話が大きくなってきて、目が廻る。
人類滅亡?そうなったら世界も終わりだ。
え、ていうか、そんな大きな任務だったっけ・・・?










「ばーか。そんなことになるわけないじゃん」










ルシアの隣で興味なさ気に肘を突いていた青年が
不敵な笑みを浮かべて言い張る。


「なんでだよ?わかんねぇぞぉ〜?」
「わかるし。ていうか、からかうなよ。そいつ馬鹿なんだから」
「べつに嘘じゃないわよ。その武器が渡れば・・・」


有り得ない話ではない。
そう続ける少女の言葉を最後まで聞かずに、シキトは腰を上げた。








「言ったでしょ。そんなことにはならない」








不適な笑みと、挑発するような眸に。
レオは理解したように呆れた表情を浮かべて肘を突いた。


「なんでそんなこと言い張れるのよ?」
「だから、おれが任務遂行するんだよ?」


犯罪者に武器が渡るって?人類滅亡?馬鹿じゃないの。











「おれが失敗するわけないじゃん」











そんなことか、警戒して損した。
とでも言いたげなやる気のない表情に唖然とする。


「悪魔なんて言うから、本当に魔女でも出るのかと思ったよ」
「おまえ、ほんと変わらねぇよ」


レオの言葉ににっと笑みを浮かべて。
淡い色の髪の青年は3人に背を向けて歩き出す。







「あいつ、ほんとムカつく」







怒りよりも呆れが先立つ少女の言葉に。
激しく同意したくなった瞬間だった。














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