そらかげ

04.決意。



身体を起こした守護職人は、
とてもきれいな金色の髪と、翡翠の瞳を持った不思議な青年だった。






「おーっ、シキトじゃんっ!!」






なになにっ、久しぶりーーっ!!
青年は太陽の眩しさに一度顔をしかめて、
目の前に現れた無表情な青年に満面の笑みを浮かべた。


「なんだよー、なにしてた?」
「べつになにも」
「そのわりには全然会わねーじゃん」
「うん。避けてたから」
「はは、おまえ冗談うまくなったなー!」
「いや、冗談じゃないんだけど」


腐れ縁の辛辣な言葉を聞いているのかいないのか、
レオは人懐っこい笑みを浮かべたままだ。








「あっれー、知らない子だ」








ふと青年の隣にいる少女を見つけ、レオが呆れたように苦笑する。
レオの苦笑にシキトはムスッと顔をしかめた。


「まぁたパートナー変わった?」
「変わるのはおれのせいじゃない」
「ル、ルシア・カーネーションです。よろしくお願いしますっ」


慌てて頭を下げて、まるで転校生の自己紹介みたいに緊張している彼女に、
暖かい優しい笑顔を向けてレオは自分を指出す。


「オレはレオくん。レオちゃんって呼んで」
「え、はぁ・・・」
「呼ばなくていいから。それより聞きたいことが、」


あるんだけど、と続くはずのシキトの言葉をレオは手で遮る。
スッと真顔に戻って、シキトを見据えた。










「わかってるよ。悪魔の事件、押し付けられたんだろ?」










レオの余裕の表情に、青年の顔が悔しそうにしかめられる。
シキトがこんな素直に表情に表すのは珍しい。


「でも、その件はオレよりティスタのほうが詳しいぜ?」
「ティスタが?」


青年の言葉に、訝しげに顔をしかめたシキトが首を横に振った。


「無理でしょ。あいつ、おれのこと嫌いじゃん。」
「嫌いだけど、ルシアちゃんを見捨てたりするような奴じゃねーよ」


決して否定しないレオに苦笑を浮かべて
ルシアは隣に立って未だに眉をしかめているパートナーを覗き込む。






寂しそうな顔をしていると思ったから。






でも青年はそんな顔、してなくて。
むしろ難しそうな顔をして、首の裏側を触った。


「聞いてみてもいいと思うけどなー、オレ」


なんなら、呼んできてやろーか?
ニッと笑みを浮かべるレオにシキトは諦めたように溜息を吐いて頷いた。


「明日でいいよ。明日のこの時間、ここで待ってる」
「おっけー、任せとけっ!」


レオの笑顔をみて、ルシアは不思議な笑顔だと思った。
同じ笑顔でも彼の笑顔は1つ1つが違う。
優しかったり、元気いっぱいだったり、ころころ変わって面白い。



レオの笑顔は、
まるで太陽みたいに輝いているような気がした。










*     *     *     *     *










その日の夜。
いつものようにクローバーでマリアと話しこんでいると、
離れた席でお酒を飲んでいた青年が、
グラスを傾けながらぽつりと呟いた。








「おまえ、今回来なくていいよ」








突然の言葉に、理解するのに数秒かかった。


「なんでっ!?」
「だってまだまだだし。はっきり言って邪魔」
「邪魔っ!?ひ、ひどいっ」


確かに弱いし、この前だって失敗したけど。


「あのね、今回はレベルが違うんだよ。ルシアにはまだ早い」
「それでもこれは2人にきた任務だよ?」


司令官も彼と同じことを言った。
でもシキトと組むなら仕方がないことだ、とも言った。








なら、頑張ってみたい。








琥珀色の瞳を見つめて、ルシアは彼の言葉を待った。
いつものように押しに負けちゃいけない、と思ったから。


「あんた、死ぬよ」
「脅しでしょ?わかりやすいよね、シキトくん」


本当に死ぬなら、彼はなにも言わずに1人で行くはずだ。
死んでしまうような危険な事件でも、彼は誰かに背中を預けたりしない。








たとえ、それがパートナーであっても。








彼はそういう残酷で酷い人だ。
残酷で、すごく不器用な優しさを持った人だ。
誤解されやすいけど、わたしはちゃんとわかってる。
いつか彼に背中を預けてもらえるような、
そんな人になりたいって思うから。
だから、がんばりたい。










「わたしは、シキトくんとパートナーでいたい」










危険な任務に行かないと彼のパートナーになれないなら、
何度だって危険と立ち向かう。


「これからも今も、あなたのパートナーがいい」


一歩間違えば死ぬような任務でも、どんなに危険な任務でも、
シキトくんとなら、大丈夫だって思えるから。



だから邪魔だなんて言わないで。










「死にたくはないけど、でもシキトくんのパートナーでいたいから。
 だからわたし、頑張りたい」










珍しく強気な彼女に思わず目を見開いた。
彼女がどれだけ彼を信頼しているかなんて、ずっと前から知っていた。
でも気の弱い彼女が、こんなにも率直にそのことを伝えるなんて。
全然、思ってもいなかった。


「ですって。どうするの、シキトちゃん?」


同じように目を見開いて固まっている青年に笑みを浮べる。
はっと我に返った青年は困ったように首を触った。
首に手をやるのは、考え事をしているときの彼の癖だ。






「・・・好きにすれば」






投げやりな、でも苦笑の混じった言葉に、
必死の形相だったルシアの表情が満面の笑みに変わった。





それは満月が顔を見せた夜の出来事。














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