そらかげ

01.天使。



月明かりが差す夜の暗闇の中、
軽い足音が、廃墟が建ち並ぶ街を通り抜けていく。






「みつけた」






建物の影から飛び出した、黒いブレザーのスーツにブーツ。
灰色の髪を左右に結わえた、灰色瞳の少女。
その少女の左手には、月明かりに当たって不気味に輝く
1挺の漆黒の拳銃が握られている。


「レイ、お願い」


レイと呼んだ拳銃を握る手に力を込めると、
少女は再び、今度は足音を立てないように静かに駆け出した。












「おや、お1人かい?お嬢ちゃん」












角を曲がった少女の足が、
後ろから聞こえてきた男の声に反応して止まった。


「教会は2人ペアで動くって聞いてたんだけどなぁ」
「・・・・・」


男は残念そうに肩を竦める。
追ってきたのが女で、しかもガキなんて・・・
などと呟いているのが聞こえてくる。










「まあいい。お嬢ちゃんは見事に俺様の試験に合格したんだ。」










それってスゲーことだぜ。
男は下品な笑みを浮かべて、刃の鋭いナイフを取り出した。


「お手並み拝見だ!!」
「っ、」


そう叫ぶと同時に、
男は信じられない早さで少女に向かって駆け出していた。
とっさにジャンプして宙を舞い、
きれいな弧を描いて男のナイフを避けつつ、ほどよい距離をとる。
鋭い視線を男に投げると、男は目を見開いて、笑っていた。




楽しくて、仕方がない。




男の笑いはまさにそんな感じだった。
一般人よりも身体能力の高い彼女は、殺人に快感を覚える彼にとって
特別面白いおもちゃに見えるらしい。






「やっぱ一筋縄ではいかないな」






そうこなくっちゃ。
とでも言いたげなその笑みに、少女は顔を引きつかせる。
・・・・頭が狂ってるんだ。
少女が息を呑むほど、男の眸は異様なものだった。
思わず一歩後退さったとき、突然男の姿が視界から消えた。










「時間切れだよ」










消えたと思った男は目の前に迫ってきていて、
反射的に目を瞑った少女の耳に聞きなれた少年の声が届いた。


「また不合格だよ、やる気あんの?」


不満そうな少年の声にゆっくりと目を開けると、
赤い血を流して倒れている男と、
男のものだと思われる血をつけた剣を持った不機嫌そうな少年。
流れるような淡い色の髪に、琥珀色の眸を持つ、
冷たい印象を与えるほど整った顔立ちの彼が彼女のパートナー。






彼の名前は、シキト・レヴァンヌ。





 






 

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