そらかげ

02.鮮やかな色。



雨が降った。
まるで滝のように、泣くかのように降り続ける雨に、
冬の風の寒さが加わって。


なぜか、すこしだけ悲しくなった。










*     *     *     *     *










雨が降った後の独特の空気と、 ひしひしと伝わってくる冬の肌寒さに
柚は珍しく顔をしかめた。







「最近一気に寒くなったわよね〜」







同じように肩をすくめて寒さに顔をしかめた未夏の言葉に
少女は苦笑を浮かべて頷いた。


「ついさっきまで、雨も降ってたもんね」
「そうねー。あー、寒いと動く気なくなるわ」
「え、ほんとに?」
「うそ。動くときは動くわ」


教室は暖房が効いていて暖かかったぶん、
廊下に出るとその寒さが身にしみる。
未夏と並んで軽口を叩いていると、すこし気がまぎれた。












「そういえば、美術室に呼び出しなんて、なにかしらね?」












少女の問いかけに、柚は同じく首を傾げる。
すべての授業は終了しているのに、いつまでたっても教室に戻ってこない男連中を、
クラスメイトが掃除をするのを眺めながら待っていると、
突然、未夏と柚の携帯のバイブが鳴った。






その用件は手短で。
荷物を持って美術室にきてほしい、
というものだった。






ということで、2人は5人分の荷物を持って美術室に向かっている。
でもどういうつもりなのか、さっぱりわからない。


「でも、女の子に荷物持ってこさせるなんていい度胸してるわよね」
「未夏さん未夏さん、目が据わってます」


つまらない用事だったら、きっと殴られるな。
5人分の鞄といっても、教科書はまったく入っていない。
男の子は女子とは違いポーチなどの余計なものも入っていないから、
空同然の鞄はものすごく軽い。







それでも、きっと殴られるだろう。







その様子がたやすく想像できて、思わず表情が綻んだ。
きっと、浩介と隆志がいい反応を見せてくるだろう。



悠士はどうだろう。



彼は運動神経がいいから、殴ろうと手を伸ばしても
とくに反応も返してくれないまま避けられるかもしれない。
そうこうしている間に美術室について、
未夏はなんのためらいもなく、扉に手をかけた。












「は〜いっ、いらっしゃいませv」












扉を開けた瞬間、目の前に満面の笑みの少年が飛び込んできて。
思わず2人して固まった。


「・・・は?」
「いやあー、よく来てくれましたっ!」
「おー、待ってたぞ」
「ていうか、どういうこと?」


遅かったじゃねーか、なんて言ってくれる隆志に
柚は思わず浩介を相手にするのも忘れて問いかけた。
だって、3人とも箒を手に持ってるんだもん。









「どういうって、見たまんまだろ?」









つまり、見たまんま「掃除」をしてるわけだ。
もちろん、美術室の掃除の当番なんて、うちのクラスにはない。
ということは。


「今度はなにしたの?」
「つめてー言い方だなぁ。ていうか悪いのは俺じゃない」
「あのねー、悠士が、せんせーの花瓶割っちゃったんだぜーいっ!」
「はあ!?またあんたなのっ!?」


浩介の言葉に未夏が少年を睨みつけた。
当の悠士は机に座って、涼しい顔を浮かべている。


「あんたね、毎回毎回っ!いい加減にしなさいよ!?」
「おれは悪くないよ、花瓶が勝手に・・・」
「そんなことあるわけないでしょっ!!」
「まーまー、とりあえず掃除を終わらせてですねー」
「いやよ、なんであたしが掃除手伝わなくちゃいけないわけ?」
「そんなぁー、友達じゃないのよ〜」
「わたしは悪くないもの。ね、柚〜?」


美術室に足を踏み入れ、真ん中あたりで騒いでいた未夏が、
突然振り返って、満面の笑みを浮かべてくる。
その様子を傍観していた柚は、
思わず「えっ!?」と目を見開いて、苦笑した。












「あっ、見てっ!」












助けを求めるように視線を窓のほうへ移すと、
そこに、七色の橋を見つけた。
大きくて、すこし薄いその橋は、とてもきれいに見えた。


「すっごい、虹っ!!」
「すげー、美しい!ビューティフルっ!!」
「カタコトな英語使ってまで言うなっ!」
「あー、ほんと。きれいだね。掃除なんてしたくなくなるね」
「掃除したいと思う日があるのかよ」
「え、ありますよ?ボクはこれでもきれい好き・・・」
「嘘付けっ!そんな常識のあるヤツが人様の花瓶割るかっ!!」
「もぉ〜、せっかくきれいな虹なのにぃ〜。喧嘩しないでぇ〜ん」
「てめーもキモいんだよ、浩介!!」


1人感動している未夏と、その隣で怒鳴りあう3人。
柚はその様子に呆気にとられるように呆けてから、
堪えきれなくなったように噴出した。












「柚、楽しい?」












隆志と浩介の言い合いから巧く抜け出した悠士が
柚を見て、不思議そうに首をかしげている。


「うん、楽しいよ」
「虹がきれいだから?」
「それもあるけど、みんなおもしろいから」
「うるさいだけじゃなくて?」
「えー?うるさくないよ」
「・・・柚って、耳遠いの?」
「えっ?なんで?」
「だって、あれがうるさくないなんて」


ていうか、それ悠士が言える言葉じゃない気がする。
彼が隆志みたいに言い合うことはないけど、
隆志が声を荒げる種を蒔いているのは、悠士なのだから。
そう思い苦笑すると、
悠士は持っていた箒に顎を乗せて、眉をひそめた。


「あー、なんていうんだっけ、こういうの」
「え、なに?」
「ほら、こういうとき言うじゃん」
「なにを?」
「えっとねー・・・」


急に悩みだす悠士に、
騒いでいた未夏たちも何事かと振り返る。








「鮮やか・・・?」








悠士の口から出てきた言葉に、
誰もが一瞬、時の流れというものを忘れた。


「あざ、やか・・・?」
「悠士ー、おまえ鮮やかって言葉の意味知らねーのか?」
「え、なに?」
「鮮やかって言うのは、はっきりした鮮明なことを言うんだよ」
「お、さすが眼鏡!博識っ!」
「これくらい、だれでも知ってるって」


悠士の言った言葉は、
すぐに消えてしまう儚い虹にはふさわしくないかもしれないけど、
彼が言うと、あながち間違いじゃない、と思ってしまえるのが不思議だった。






虹は決して「鮮やか」ではないけれど、
あなたが言うなら「鮮やかだ」と思えないことはない。






























<あとがき>

えっと、鮮やかって難しいですね^^;
虹は私が学校で見つけて、
それがすごくきれいだったので使ってみました。
「鮮やかな色」になってなくてごめんなさい!


えっと、「1、転校生」に引き続いてのこのキャラなんですが、
悠士くんはどこまでもマイペースくんです。笑
花瓶を割って、みんなを掃除への道に巻き込んでも
本人はなんとも思っていません。笑



意味のわからない小説(?)を
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
感想などいただけたらうれしいです^^