そらかげ

02.転校生。



それは、雲ひとつないよく晴れた日の出来事。










「はーい、静かに!今日からみんなのお友達になる春日柚ちゃんだ」
みんな仲良くするよーに。










小学生のようにはーい。と答えるクラスメイトに少し呆れた。
だいたい、担任の紹介の仕方もおかしいだろ。
なんだ、お友達って。
・・・ま、そういうクラスだよね。
思わず大きな溜息を吐くと、ちょうど転校生の少女と目が合った。
春日柚は少しきょとん、とした後、にっこりと微笑んだ。







とてもきれいな笑顔だった。







・・・春日、柚。
お友達になりたい!そう強く思った瞬間だった。










*     *     *     *     *










やっぱり転校生は物珍しいのか、
休み時間になるたびに囲まれて少女は困ったように苦笑していた。










「ねー、あんたたちさ、ほかにすることないわけ?」










その様子を眺めながら隣で
欠伸を掻いたり、漫画を読んだり、大げさに動いて暴れている友人に問いかける。


「え、未夏はわかってないなー、これほど有意義な過ごし方はないですよ?」
「そうだそうだーっ、未夏はわかってない!」
「あーはいはい。ねっ、有意義ついでに新しい仲間を増やさない?」
「仲間って、おれたち仲間だったの?」
「ぜってーイヤだ!こんなヤツらと仲間なんてやってらんねー!!」
「あー・・・確かに隆志と仲間っていうのは辛いものがあるよね」
「あー、確かにっ!」
「おめーらだけには言われたくねぇよ!!」
「あーもう煩い!んで、ものは相談なんだけど〜」


手を2回ほど叩いて話を止めて、にっこりと微笑む。
男3人がとても嫌そうな顔をしたけど、そこはムシ。












「誰か転校生、さらって来てよ」












まるで「ジュース買ってきてよ」とでも言うような軽い言い方に、
しばらく誰も反応できず、固まった。


「・・・はあ!?」
「わたし、あの子気に入っちゃった!人だかりの中から連れ去ってきて?」
「んなもん、自分で行けばいいだろ!?」
「ばかねー、わたしが行くわけないでしょ?」
「なんでだよ?」
「ん?めんどくさいから!」
「・・・・・」


押し黙ってしまった隆志に満足気に頷いて。
未夏はそうだな〜、と手を顎に当てて考える。


「悠士、あんたが連れ去ってきて」
「え、なんで?めんどくさい、やだよ。」
「いーから。あんたモテるし、文句言われないでしょ」
「そういうこと言いたいわけじゃないんですけどね」
「もうっ、文句言わない!だって隆志も浩介も煩いし、引かれちゃうでしょ?」
「おいっ!!それはどういうことだよ!!」


突っ込みを入れてくる隆志をさくっと無視して悠士を指差す。
わたしは、あの転校生とお友達になりたいのだ。


「わかった?あんたしかいないのっ!」
「えー・・・あ、」
「ん?なに・・・うわ!?」


なにかに気づいたように目を見開いた悠士の視線をたどって振り返ると、
そこには物珍しそうに自分たちを見る例の転校生がいた。












「なにしてるんですか?」












にっこりと微笑んで首を傾げる少女に
思わずきゅん、として抱きしめたくなる。
やっぱ、かわいいっ!


「次、移動らしいんですけど。どこに行けばいいか、知ってますか?」
「え・・・っと〜」


くそっ、どこに行くどころか、次がなんの授業なのかすらわからん!
せっかく一緒に行動するチャンスなのにっ!
1人必死に考えていると、座り込んで漫画を読んでいた悠士が
ぱたん、と漫画を閉じてゆっくり立ち上がった。










「生物室だよ。一緒に行く?」










転校生・春日柚と向か合って問いかける悠士を
柚は少しの間まじまじと見つめた。


「え、いいんですか?」
「もっちろん!可愛い子はいつでも大歓迎さーっ!」
「うん、じゃ枕取ってくるから待ってて」
「枕って・・・おまえはなにしに行くんだよ!」
「なにって、睡眠授業でしょ?」
「違うわっ!!あーもういい、好きにしろ」


1人騒ぎ出す浩介と、枕を取りに行った悠士に、呆れてものも言えない隆志。
この3人でも十分って言ったら十分の仲間だけど。
そこに可愛い、少し不思議な春日柚が加われば・・・。








「かんぺきだわ・・・」








これほど最高の仲間はいない。
漫才をしだす男3人と、楽しそうに笑う柚を見つめて。
1人満足気に頷いた。










*     *     *     *     *










転校生。
それはとても興味深く。
暇をもてあそぶ者にはとても魅力的。







あのとき、
あなたの笑顔がとてもきれいに見えて。
心惹かれたの。







きらきらして見えるあなたの笑顔を
もっと近くで見てみたい。





一緒に笑ってほしい。





新しい環境に、不安いっぱいのあなたを。
わたしたちが笑わせてあげる。







転校生。
それはとても興味深く。
暇をもてあそぶ者にはとても魅力的。






でも、あなたに惹かれた理由は。






転校生だから、って理由だけじゃない。
あなただから仲良くなりたい。
わたしはあのとき、強く、そう思った。





あのとき、わたしには転校生・春日柚が。
とてもきらきらして見えたの。


だからきっと、これからもっと楽しくなるわ。