まだ、自分の足で歩き出すには幼かった頃。
夢に恋焦がれていた頃。
わたしは、あなたに出会って、恋することを知ったの。
「あれから5年も経ったんだ・・・・・」
学校を卒業して、この校舎から旅立って5年。
あのときの夢は今もわたしの中に息づいている。
「真也、覚えてるかな」
誰もいない教室に小さく呟いた自分の声が響く。
すこし寂しくなって、肩を落としたとき。
背後で人の気配がした。
「覚えてるに決まってんじゃん、約束だろ?」
驚いて振り返ると、記憶のままの少年がそこにいた。
卒業して5年後、この教室で再会しよう、と約束した彼。
お互いに夢に向かって頑張ろう、と励ましあった友人。
「真也っ!・・・・成長してないね」
「なっ!?失礼なヤツだなっ、感動の再会で言うことがソレかよっ!?」
「あはは、ごめんごめん。久しぶりだね」
「元気そうじゃん、安心した」
昔の笑顔のままの少年に、胸が暖かくなる。
ああ、彼はわたしの心の中でこんなにも大きな存在になってるんだ。
改めて実感した想いを刻み付けるように目を閉じた。
「どした、莉奈?」
「ううん・・・・なんでもない」
「そう?」
不思議そうに首を傾げる少年に、満面の笑みを浮かべる。
そして少年の手を取って、教室から飛び出した。
「校舎中を廻って、いろいろ思い出そうよっ!」
昔話をしましょう?
あのときの思い出を記憶に焼き付けるために。
莉奈の申し出に、少年は深く頷いた。
やっぱり思い出深い場所は2人で夢を語り合った
グランドが見渡せる観覧席だろう。
「おまえ、ここでよく俺の練習見てたよな」
「サッカー、すこしは上達したのお〜?」
「ばっかだな!当たり前だろ?俺は天才なんだっ」
「はいはい、聞き飽きたわよ」
彼の夢はプロのサッカー選手。
わたしは世界一のカメラマンになること。
壮大な夢に怖気づきそうになったときもあった。
その度に、あなたはいつも励ましてくれた。
「大切なのは、夢を叶えたかどうかじゃなくて。
大切な夢のためにどれだけ頑張れたか、だぞ!」
その言葉はぜったい忘れない。
自分に言い聞かせるように、でもわたしのために必死になって
諦めたらだめだと、応援してくれたあなたを忘れない。
「真也が始めてだったんだ」
「ん?なにが?」
「わたしの夢、笑わなかったの」
「笑わないって!笑うわけないじゃん」
「うん、だから」
だから、なんでも相談した。
初めはみんな、一時の気の迷いだとか、ムリだと決め付けて笑う。
でも彼だけは違ったから。
わたしの中で、彼だけがきらきらして見えた。
「すっごく、嬉しかったんだよね」
ありがとう、と5年前に言えなかった言葉を口にする。
珍しく素直な少女に真也は真剣な表情で頷いた。
思い出を語るには時間が短すぎる。
いや、思い出が多すぎるのか。
今になって泣きそうになって、思わず欠伸で誤魔化した。
「けっこう喋ったな」
「尽きないよね、わたしたちの会話」
「だな!でも、そろそろ帰るか」
「え・・・・?」
校舎を廻って、最終的に辿り着いた卒業した年の教室。
椅子に腰掛けていた少年が突然立ち上がって、終わりの言葉を告げる。
まだ、まだだめ。
莉奈はとっさに彼の服の袖を掴んでいた。
「どした?莉奈、今日ちょっと変じゃない?」
「わたしたち、また会えるの?」
「・・・・当たり前だろ、親友じゃん」
「ほんとに?」
変に間があった彼の回答に心が痛む。
怪訝そうに表情をしかめる少年を、まっすぐ見つめた。
「わたし、知ってるよ。
わざわざ会いにきてくれたんだよね。」
少女の言葉に、少年が目を見開いた。
言葉を返すその表情はすこし引きつっている。
「は?なに言って・・・・・」
「わたし、知ってるよ。約束したあの日、交通事故で、」
「・・・ま、待って・・・っ」
「子どもを助けようとして、巻き込まれた男の子がいるって」
人づてに聞いて、事故現場に駆けつけたとき。
心臓が止まるかと思った。
未来での再会を約束をしたばかりの人が、
そこに血だらけで横たわっていた。
「真也は、そういう人だったもんね」
自分のことなんて顧みず、相手のことを助ける。
真也はそういう優しくて強い人だった。
「・・・・そっか、知ってたんだ」
「真也の時間は、あのときに止まったままなんだね」
「死んじまったからな」
「それでも、今日来てくれたんだよね」
「約束、だったから」
椅子に腰掛けて辛そうに微笑む少年に
唇をきつく咬み締める。
そうしないと泣いてしまいそうだった。
「ずっと見てたよ。莉奈、夢に向かって頑張ってたな」
少しずつ夢に近づいてゆく彼女を見てると、嬉しかった。
俺も、一緒に頑張っているような気がして。
「・・・・だって、真也と約束したもの」
「覚えてるよ。お互い夢に向かって頑張る、てやつな」
「それだけが、わたしの支えだったんだから」
少女の言葉に嬉しそうに微笑んで、
椅子から立ち上がる。
その笑顔が、もう一生見れなくなると思うと、
涙が溢れてきて、止まらなかった。
「夢に向かって頑張ってる莉奈、すっごくきらきらしてた」
涙にかすんでも、少年の姿だけがはっきり見える。
真也はそう言うけど、わたしには真也のほうがきらきらして見えたよ。
ずっとその光に恋焦がれてたんだから。
「莉奈はもう俺がいなくても大丈夫」
「・・・・そんなこと、言わないで・・・・っ」
「おまえはちゃんと前に進んでるよ」
でも、心の中にはずっとあなたがいた。
これからも、きっと。
「莉奈は、未来に進めよ」
俺のぶんも。
無音の言葉が聞こえたような気がして、頷く。
大丈夫よ、真也はわたしの心に生き続ける。
あなたのいない世界で、わたしは前に進むの。
心の中のあなたに恋焦がれて。
あなたは永遠にわたしの支えになる。
「真也、わたし、ずっとあなたが好きだった」
「俺もだよ、莉奈」
これからも、ずっと。
空の上から莉奈のこと見守ってるから。
「さよなら。」
淡い光となって消えた真也の姿。
わたしはその場で、気が済むまで涙が枯れるまで泣いた。
この涙が止まったら、わたしは強くなる。
過去を塞いでしないように。
真也が好きだと言ってくれた、わたしだから。
彼のように、わたしも強くなる。
彼がしてくれたように、わたしも誰かを勇気付けられる人になる。
彼に恥じないように、未来に進む。
「でも、忘れないから」
あなたが教えてくれたこと、
ぜったい忘れない。
ほら、世界はこんなにきらきらしてるよ。
−end−
あとがき。
部屋で少女漫画を読み返していたら、ふと昔読んだ
「りぼん」の持田あきさんの漫画を思い出して衝動に任せて書いた小説。
題名は忘れてしまいましたが(すいません;
交通事故で死んだ少年と女優を目出す少女が、再会する話。
すっごい省略しましたが・・・・^^;
とても心に残っていて、それをイメージしながら書いたので
話すこし被ってるかもしれません。
漫画が手元になくて、確認することもできなくて・・・・。
今になって怒られないか不安になってきました、すいません。
でも、イメージはしても言葉とかはちゃんと自分で考えてますので、
楽しんでいただけたら嬉しいです。