そらかげ

03.国境の街。



大国と大国を繋ぐ小さな街があった。
小さいなりに豊かな街だったけど、人たちの心は荒んでいた。






「魔女の子が生まれた」






村中がその魔女の子の噂で大騒ぎになった。
それは、ある春の日の出来事だった。










*     *     *     *     *










夏の太陽の陽射しが眸に眩しい。
青々と茂る緑の下に二人の少年少女がいた。


「なあ、知ってるか?」
「なにを?」


急に話し出した少年に少女はすこし驚いたように目を見開いた。
少年は珍しく真剣な眸をして、空を見上げている。


「この村は国境の街なんだぜ?」
「知ってるけど」
「俺さ、いつか旅に出てみてーなあ」
「はあ?」


少年はいつも突拍子もないことを言うが、
旅という言葉にミオは表情をしかめずにはいられなかった。


「だって俺、この村嫌いだもん」
「だからって・・・」
「それに楽しそうじゃね?」
「大変そうだよ」


ヤマトはその言葉の重さをわかってないんだ。
旅に出たことなんかないけど、少女はそう思った。
ミオの呆れなどまったく気にしてない様子で、ヤマトは楽しそうに
眸をきらきら輝かして、少女を見た。


「ちょっと村から出れば、そこは大都市なんだぜ?」
「そうだけど、」
「なんだよ、ノリ悪いなあ」


そんな不満そうな表情されても困る。
珍しく言い返さなかったのは、ミオがヤマトのきらきらしたその表情が
好きだったから、咄嗟に言葉が見つからなかったから。










「俺が旅に出るってことはミオも旅に出るってことだぞ!」










当然のことのように言い放ったヤマトはなぜか誇らしげだった。
それと同じくらい嫌そうに少女が表情をしかめる。


「はあ!?」
「当たり前じゃん!」


なんだよ、おまえ。俺一人で行かせる気かよ。
なんて、ヤマトは不満を通り越してすねだした。
まったく意味がわからない。


「なんで一緒に行かなきゃいけないのよ」
「俺らはニコイチだろ!?」
「なんでよ!?双子みたいに言わないでよ!」
「双子じゃねーよ!人生のパートナーだっ!」
「夫婦かっ!」


まったく変なとこで寂しがりやなんだから。
そう言ってやろうと思ったけど、前にこの台詞を吐いたら、








『俺がいなくなったらミオが泣くからじゃん』








なんて腹立たしいことを言われたから黙っておいた。
泣くなんて有り得ない、とそのときは言い返せたけど、ほんとは自信がない。
だってヤマトが少女が離れて行ったことなんてないから。


「そんなかわいくねーことばっか言ってたら連れてってやんねーからな!」
「はあ!?どこによ?」
「旅にだよ。俺一人で仲間作って旅に出てやる!」
「・・・・勝手にすれば」


自信がない、と考えていたばかりだったから、すこし言葉に詰まった。
目聡い少年はたぶん気づいたに違いない。
すこし気になってちらりと少年の様子を伺うと、頭を撫でられた。
突然のことに驚いて目を見開く。
そんなミオに少年は嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。










「嘘だよ。旅に出るときは迎えに行くから」










もし、本当に旅に出ることになって。
もし、本当に誘われたなら。
あたしは断ることができるんだろうか。


「まあ、断るつもりもないけど」
「ん?なんだって?」
「べつに。旅することになったら楽しいだろうなあ、と思っただけ」
「・・・・ミオ、楽しいか?」
「まあね。退屈じゃないよ」


ミオの言葉に、ヤマトは嬉しそうに微笑んだ。
なんでヤマトが嬉しそうに笑うのか疑問に思ったけど尋ねる前に少年が口を開いた。






「ミオの楽しいは、俺の楽しいだから」






おまえのものは俺のもの。俺のものはおまえのもの。
ミオにたいしてそんな考え方をする少年に少女も笑みを返した。
きっと自分たちはこれからもずっと一緒なんだろうな。
幼いながらにそう思った夏の日のひと時。










*     *     *     *     *










それから5年後。
少年が本当に迎えに来て、本当に旅することになるとは。
予想外もいいところ。






でも、後悔はしてない。






少年を庇いきれなかったことに悔しい思いをしたことはあったけど、
国境の村から離れたことに寂しい思いをしたことは一度もない。
魔法の勉強はできるし、信頼できる仲間もいる。
なにより、幼馴染の少年と一緒だから。


「ミオ、そろそろ出発するって!」
「はあい」
「なに考えてたんだよ?」
「べつに、なにも?」


含み笑いを浮かべて馬車に乗り込む少女にヤマトが口を尖らせた。
どうしても気になるらしい。


「5年前に、旅の話したなあって思い出してたの」
「ああ。したした!あんときは本当に旅に出るとは思わなかったけどな」
「まさかこんなことになるなんて」
「なんだよ。楽しいだろ?」
「・・・・なんでそう思うわけ?」


訝しげに少年を振り返ると、
ヤマトの満面の笑みと目が合った。








「俺が楽しいから」








少年の口癖は今も健在で。
昔は意味不明だったこの言葉も、今は自然と笑みがこぼれるくらい嬉しい。
国境の村から旅立って、あたしたちは成長してゆくんだ。




たぶん、あなたと一緒に。

















−end−












あとがき。

はい。凝りもせずまとまりのない話ですいません。
今回の2人は01・予期せぬ来訪の2人です。
旅立つ前の話と、後の話(ていうか会話?回想?)のつもりで書いてます。
一ヶ月くらい小説アップしてないので、若干焦って書いてます。笑
ていうか、国境とか全然関係ない話になってますよね^^;
いいのかなあ、こんなんで。涙