うるさく鳴り響くノックの音に。
なぜか、嫌な予感がした。
「ミオちゃん!?」
扉の向こうから聞こえてくる声は、
聞き覚えのある、隣に住んでいるおばさんのものだった。
ヤマトと顔を見合わせてから、
扉の取っ手に手を伸ばしたとき。
「ヤマトが帰ってきてるらしいのだけど、そこにいないかしら?」
「えっ!?」
口に出た驚きの声に、慌てて口を塞いだ。
なんで、もう知ってるの?
ていうか、なんであたしの家に真っ先に来るの!?
当然のことだと知りながらも、そう思わずにはいられない。
後ろを振り返って、思わず少年を睨みつけた。
「俺はべつに悪くないぞ」
「わかってるけど!なにか考えてあるんでしょうねっ!?」
「いや、こんなに早く見つかるとは思ってなくて」
「じゃ、なにも考えてないの?」
扉は今もうるさく鳴っている。
おばさんは、もとからここに狙いをつけていたようだ。
きっと、こっちが出て行くまでノックし続けるだろう。
「どうしよう・・・」
「そんなの、決まってるだろ」
簡単じゃん、と子供みたいな笑みを浮かべて
少年は3年前より大きくなった手を差し出した。
「一緒に来るか、この村に留まるか。今決めればいい」
差し出された手に目を見開く。
目の前にある少年の手と、耳に聞こえる村人の声。
視覚と聴覚の先にある2つの繋がり。
そのどちらを取るか、頭がうまくまわらない。
「おまえがこの村を選ぶなら、俺は裏口から1人で逃げる」
「でも、俺と旅することを選ぶなら、おまえを外の世界に連れて行ってやるよ」
今、ここでこの少年が見つかっても、
罪悪感は残るが、困るのは少女じゃない。
1番困って、大変なことになるのは彼のほうだ。
そのことを彼はちゃんと理解してるんだろうか。
そんなことを考えながら、溜息を吐いた。
「ヤマトと関わると、ほんとろくなことがないよ」
「でも、おもしれーだろ?」
「調子に乗るな。昔から、どんだけあたしに迷惑をかけたら気が済むの?」
「迷惑、かけてるつもりないんだけど」
扉の向こう側の、村人の声が増えた。
みんな、この家に目をつけたらしい。
というより、扉を押し開けようとしている。
まったくみんないい勘してる。
「で、どっち選ぶ?」
手を差し出したまま、そう問いかける少年は笑顔だ。
まったく、なにもかも気に入らない。
そんなのわざわざ聞かれなくても、
初めから答えは決まってる。
扉を開けて、家の中に入ると、
そこは夜の闇に包まれて、真っ暗だった。
「ガキはどこだ!?」
「きっといるはずよ。声は聞こえていたもの」
「とっ捕まえてやる!」
鬼のような形相で部屋を探し回る大人たちに、
何事かと様子を見に来た子供たちが、驚きのあまり泣き出した。
騒然とする場所に、ただ怒鳴り声と泣き声だけが響いた。
「ちょっと、子供が泣き出したじゃないの!」
「もっと静かにやってちょうだい!」
「うっせー、おまえらも探せよ!」
「いない・・・どこにもいないわ・・・」
1人の女性の言葉に、騒いでいた村人が押し静まる。
誰からともなく、安堵と落胆の溜息を吐いた。
「うまいこと逃げられたわね」
冷静に判断した女性の言葉に、
隣にいた男性が悔しそうに近くにあった花瓶を割った。
でこぼこした地面を駆け抜ける馬車が一台。
荷物をたくさん積んで、中には5人の人影が見える。
「よっしゃー!、スピード上げてどんどん進めーっ!」
「ちょ、むりっ!もっとゆっくり!」
荷台から顔を出してはしゃぐ少年と、
その隣で必死に馬車にしがみつく少女。
彼女は少年と旅をすることを選んだ。
少年が必死に彼女を自分の領域に巻き込もうとするのに対し、
少女はそれに興味を抱きながらも、必死に抗う。
それが2人の関係。
でも、最後に折れるのはいつも少女のほう。
「知ってるか?俺の「楽しい」はミオの「楽しい」なんだぜ?」
「俺がミオの人生楽しませてやる!」
それは、子供の頃からの彼の口癖。
馬車に揺られながら、ミオはすこし目を吊り上げた。
「言ったわね。約束だからね?」
「おう、まかしとけ!」
外から聞こえる楽しそうな笑い声に、
荷台の中でまったりしていた旅の同行者たちが微笑んだ。
少年の口癖の言葉が、
楽しい、から幸せ、に変わるのは
もうすこし、先の話。
−end−
あとがき。
話まとまってなくてごめんなさい・・・。
そしてお題に添ってなくてごめんなさい・・・。
えーと、この話の裏話を書きますと、
火事事件ですが、あれ実は誰も死んでません。
村人の偽装です^^;
ミオは頭もよくて、魔法も使えるので、村人的には利用したかったんですね。
でもそれには、
ミオを苛めるヤツはどんなヤツだろうとやっつけてやる!
的なガキ大将のヤマトが邪魔だったわけです。
それで、無理やり罪擦り付けて、追いやったと。
まあ、ミオはミオで村人たちの違和感に気づいてたんですけどね。
いつか、こんな保釈ナシの話書きたいなあ^^;
ていうわけで、
少年少女の最悪な村からの逃走劇でした(違う!