いつか叶う夢の物語。
もし、願い事がひとつだけ叶うなら。
青く、どこまでも広がる空を見上げて。
思わず口の端が吊りあがる。
「さつきー、なに笑ってんだよ。こえーぞ」
一歩前を歩く少年に、視線を移して。
えへへーと満面の笑みを浮かべてみせる。
「な、なんだよ。ほんと気持ち悪りぃ」
「真琴はさーもし願い事がひとつだけ叶ううとしたら、なにを願う?」
「はぁ!?」
おまえ、ほんとに頭のネジどっかに落としたんじゃないの?
怪訝そうに眉をひそめる幼馴染にただ問いかける。
あなたは、なにを願うの?
もし、魔法を使えるようになったら、なにをする?
ねぇ、あたしはね。
あなたのことをもっと知りたいの。
「なんか、よくわかんねぇけど・・・俺はずっとこのままでいたいなぁ」
「え・・・?」
ただからかっているわけではないとわかったのか、
付き合いのいい彼は急に真顔になると、静かにそう呟いた。
「だって今すげー楽しいじゃん。
ずっと楽しいままだったらいいな、って思わねぇ?」
子供のままで、なにも知らないままで。
ずっと一緒に笑っていられたら。
彼らしい答えに、思わず目を見開き、歩んでいた足を止める。
楽しそうに級友の話を続ける彼を黙って見つめた。
「・・・あたしは、空飛びたいな」
小さな声で呟いただけのはずなのに、
彼の耳にはちゃんと届いていて、目を丸くして振り返る彼に急に恥ずかしくなった。
「と、飛べるわけないけどね!ピーターパンじゃあるまいしっ」
「いいじゃん。「もしも」の話なんだろ?」
よくわかんねぇけど。
いつもは腹が立つほど意地悪なのに、こんなときだけ優しいんだ。
からかったりしないんだ。
なんか、ムカつくなー。
再び歩き始めた彼の背中を睨み付ける。
いつか、いつか真琴が驚くような素敵な大人になってやる。
そしたら、言うんだ。
もし、願い事がひとつだけ叶うなら。
本当に欲しいものとは違うけど。
本当に叶えたい願いじゃないけれど。
あたしはきっと、空を飛ぶことを願うだろう。
ずっと楽しいときのまま、なんて。空を飛びたい、なんて。
到底あたしたちには叶えられないから。
叶えられないことは魔法使いに任せて。
自分で手に入れられるものは、自分の力で。
いつになるかなんてわからないけど。手に入るかなんて、わからないけど。
「いつか言えたらいいなー」
ぽつりと漏れた言葉はやっぱり彼に届いていて、思わず苦笑する。
「ん?なにが言いたいんだよ?」
「なんでもな〜い」
「はぁ?きもいぞ、おまえ。・・・いつもだけどな」
「なんだってぇ!?」
「それよりもっと早く歩け!学校に遅刻するぞ!」
今月何回目だと思ってんだよ、勘弁してくれ。
頭を抱えて溜息なんて吐く彼に噴出しそうになる。
そんなこと言っていても、必ず待っていてくれるんだ。
歩くスピードが遅くて、遅刻しそうでも。
なんだかんだ言って付き合いのいい彼は、必ずあたしに付き合ってくれる。
それがただ嬉しくて。
「ほんと、いつか言えたらいいなー」
あなたのことがずっと好きでした、って。
今度は聞こえなかったらしく、
文句を言いながらあたしに合わせてゆっくり歩き続ける幼馴染に。
笑みがこぼれた。
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