ぼくの生きる道。
あなたのためなら、なんだってしてみせる。
生きるために犠牲が必要だというのなら。
大切なものを護るために他者を殺めなければならないなら。
ぼくが犠牲になり、この手を血で汚そう。
主の代わりに手を汚し、身代わりになるのが護衛の役目だから。
ぼくがそう誓ったとき、
あなたは悲しそうに微笑んだだけだった。
その悲しい笑顔の理由を知りたくて。
考えて考えて、でも最期までわからなかった。
あなたはなにもわかっていないんですね。
わたしは、ただ護ってもらいたいわけではないんですよ。
そう言ったときも、あなたは悲しそうな表情をしていたね。
でも、ぼくの誓いに嘘はなかったんだよ。
私がなにを望んでいるのか、考えてください。
そう言って少しだけ楽しそうに微笑んだ少女は、もういない。
遠い昔、必死で護ろうとした彼女は、もういない。
結局、答えを教えてもらう前に、彼女は旅立ってしまった。
悲しい謎かけを残して、逝ってしまった。
「そこの幸薄そうなおにぃさん」
聞きなれた声に振り返ると、
楽しそうな笑顔を浮かべたポニーテールの少女と目が合った。
「やあ、マリー」
「辛気臭いなー、なに考えてたの?」
相変わらず言いたいことを躊躇いもせず言ってくれる。
隣に並んだ小柄な少女に苦笑して、足を踏み出した。
「マリーはさ、護ってもらうのって嬉しい?」
彼の問いかけにマリーは隣の少年の顔を不思議そうに覗き込む。
いつも通りの穏やかな笑顔。
でもその眸は真剣だった。
「嬉しいよ。嬉しいけど、複雑かな」
「・・・どうして?」
「だって、あたしを護ってくれるような大切な人が自分の所為で怪我とかしたら、悲しいもん」
悲しい?と子供ように不思議そうに首をかしげる少年に、
マリーは笑みを浮かべた。
「護ってもらうだけじゃなくて、お互い助け合えるほうが、あたしは嬉しい」
ていうか、黙って護られるほどあたしは弱くないけどね。
当たり前のように腰に手を当てて言う少女に、
自然と表情が緩むのがわかった。
「で、それがなんなの?イミわかんないんだけどっ!」
何に悩んでるの、教えなさいよっ!!
キッとこちらを睨みつけて、
問い詰めてくる少女に笑いが止まらない。
「なんでもないんだ、ちょっとね」
「だから、その「ちょっと」を聞いてるんでしょ!?」
「ほんと、もういいんだ。」
そうか、そうだったんだ。
あなたが言いたいことは、こういうことだったんだね。
「なら、もう解決したのね?」
どこかご立腹のようすで、問いかける少女に笑顔をむける。
わざとらしく溜息を吐いた少女は冷めた表情をして、踵を返した。
「そ、ならいいわ。あたしにははっきり言って、関係ないから」
「あれ、なに拗ねてるの?」
「拗ねてないっ!!」
唇と尖らせて、振り向きもしない少女の後姿に笑みがこぼれる。
早足で歩く彼女は明らかに拗ねていた。
「ねえ、マリー」
その後姿に声をかければ、なに!?と怒鳴り声が返ってきて。
口元が緩むのを止められない。
こうやって普通に笑えていることが、不思議だった。
護るべき主を失って、世界から色が消えて。
眸はガラス玉のように、うまく世界を視ることができなかった。
それなのに、今は当たり前のように笑っている。
世界は色鮮やかで綺麗に視える。
そうやって世界が変わりだしたのは、彼女と出会ってから。
「マリーてば」
「だからなにっ!?」
苛立ったように振り返った少女に感謝の笑みを浮かべて。
その笑顔に目を見開く彼女を見つめる。
「ありがとう。」
ぼくの世界から色を取り戻してくれて。
おかげで、昔は視えなかったものが、今ではたくさん視ることができる。
ぼくはなにもわかってなかったんだ。
護れたら、それでいいって思っていて。
ただあなたが無事で、ただ護れればいいんだ、そう思っていた。
でも、そうじゃなかった。
ぼくは護ることしか考えてなくて。
あなたの気持ちなど1つもわかろうとしてなかったね。
でも今、少しだけわかった気がする。
護るということは、ただ身を盾にして庇えばいいわけじゃない。
護るということは、一緒に生きていくってことなんだ。
「・・・どういたしまして」
少年の笑顔にしばらく呆然としていた少女が、
そっぽを向いて呟いた。
「うん。ほんとにありがとう」
「も、もういいからっ!帰るよ、ウィルっ!!」
「あれ、顔赤くない?」
「うっさい、黙りなさいっ!!」
素直に笑って、自由に生きる。
護りたい人の前に立つのではなく、背中を預けあって。
一緒に、立ち向かう。
それが、新しいぼくの生きる道。
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